イエメンの軍再編は新体制への一里塚

執筆者:池内恵2012年12月26日

 イエメンで12月19日に、軍の機構の大幅な再編策が発表された【「イエメンの大統領が軍の再編で政敵の権力を削ぐ」ロイター12月19日】【「ハーディー大統領が再編を推し進める」イエメン・タイムズ12月24日】【イエメン国営通信社の伝える大統領令の原文】。イエメンの新体制への移行への最大の課題は、サーレハ前大統領の親族が軍中枢の要職を押さえ、国軍全体の指揮命令系統に服さない、各種の精鋭部隊・特殊部隊を複数編成して政権を護持してきた点をどう克服するかである。サーレハの息子や兄弟や従弟や甥などが、揃って軍の要路のポストや部隊司令官に就任し、「ファミリー・ビジネス」のように軍を掌握してきた。これは国家と国民の統合を阻害してきた。

 代表的な例は、サーレハ前大統領の息子のアハマド・アリー・アブドッラー・サーレハで、共和国防衛隊の司令官を務め、サーレハの甥のヤフヤー・ムハンマド・アブドッラー・サーレハも中央治安部隊の司令官だった。

 これはサーレハ派だけの問題ではなく、サーレハ派と連合や対抗の関係を複雑に切り替える諸部族の勢力も、それぞれ地縁・血縁で部隊を編成しており、国軍はそれらの独立した諸部隊の寄せ集めという性質が色濃かった。代表的なのが、昨年3月に傘下の精鋭部隊ごとサーレハ政権に反旗を翻し、政権崩壊を決定づけたアリー・モホセン・アル=アハマル将軍(北西軍管区司令官・第一機甲師団司令官)であり、部族勢力による国軍の分裂をもたらしてきた張本人の一人でもある。

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