富裕税「劇場化」に失敗した仏オランド政権

執筆者:国末憲人2013年1月15日

 フランスのオランド政権が目玉として打ち上げた富裕税の導入構想が、頓挫の危機に瀕している。法律の合憲性を審査する憲法審議会が12月29日、違憲の判断を示したからだ。政府は法案をつくり直す意向だが、「庶民派大統領」の象徴的イメージとしてこの新税構想を打ち出したオランド大統領の戦略が崩れかねない状況だ。


 富裕税は、100万ユーロを超える所得に対して75%を課税する構想。対象となるのは、実業家や芸術家、スポーツ選手ら、せいぜい1500人程度に過ぎない。税収増が目的というより、格差社会の中で庶民に寄り添う姿勢を見せるパフォーマンス要素の強い政策だった。


 だから、映画俳優のジェラール・ドパルデュー氏がベルギーへ移住する姿勢を見せる程度の反発は、十分織り込み済みだった。金持ちが怒れば怒るほど、政策への庶民の支持が集まるからだ。実際、ドパルデュー氏に対して多くの市民や知識人が反感を抱いたのは、すでに昨年の本欄で報告した通りである。


 予想外だったのは、その法案自体が違憲の判断を下されてしまったことだった。


 フランスには、日本や米英にないいくつかの不思議な組織があるが、憲法評議会(Le Conseil constitutionnel)は、その一つである。新たに成立した法律や条約の合憲性審査を主要な役割として持つ。司法機関ではないが、政争から超越した存在と位置づけられ、12人の委員は「賢人」(Les Sages)と呼ばれている。

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