解放軍上将の著書をめぐる想像

執筆者:野嶋剛2013年2月7日

劉亜洲という人民解放軍上将の「劉亜洲国家思考録」という本が最近、香港で出版されて話題になった。

どうもこの本、実際には劉自身が出版を許可したわけではなく、過去に劉亜洲が発表したさまざまな言論を勝手に集めて本にしてしまった香港にありがちな「ゲリラ出版」の類いのようだ。それでも、劉亜洲という人物の言動は常に注視されてきたうえ、習近平に近いとされていることから、全人代前のこの敏感な時期の出版の背後に思惑があるのかとつい想像をたくましくしてしまう。

劉亜洲の血筋は抜群にいい。父は劉建徳という解放軍の古参幹部、しかも妻の李小林は李先念・元国家主席の娘だ。空軍畑が長く、現在は国防大学の事実上のトップにあたる政治委員の一人で、昨年には上将に出世している。太子党の有力者であるが、単なる二世軍人というわけではない。解放軍のなかで際だって筆の立つ男として知られている。

劉亜洲は中国作家協会に所属し、1980年代に数多くの長編小説を出版した。その後は政治や中国社会に対する鋭い批評を行っており、「政治改革」「反腐敗」などでは鋭い筆致と思考で厳しく現状を指弾している。いったい軍人がどうしてここまで大胆に書けるものかと巷では不思議がられてきた。

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