日本の食卓外交に秘密あり

執筆者:西川恵2004年10月号

 日本の在外公館の館長である大使や総領事に任命された外交官にとって、連れていく料理人の選定は決して小さくない問題である。公邸でどのような料理を出すかは、どれだけ情報をとれるかと密接に関係しているからだ。 九月初旬、ヤンゴンに新しく赴任した駐ミャンマー大使の小田野展丈・前儀典長は、公邸の料理人にバンコクの日本レストランで働くタイ人を連れて行った。外務省の外郭団体である国際交流サービス協会が、「日本料理を作れるタイ人公邸料理人」として登録している一人である。 小田野大使は「タイとミャンマーは隣国で、気候風土や食材も似ているので、タイ人の方が適任と思います。将来、母国で日本料理を普及してくれれば、日・タイの文化交流にもなります」と語る。 日本の大使館や総領事の公邸で働く料理人は、かつてはすべて日本人だった。同協会は在外の公邸で働いてもいいという日本人の料理人を登録しているが、近年、中東、アフリカなど生活条件の厳しい途上国への希望者は大幅に減少。九一年の湾岸戦争後、この傾向に拍車がかかった。 このため同協会は九三年からバンコクで「タイ人公邸料理人指導育成教室」を開始。バンコク市内の日本レストランで働くタイ人の料理人に三カ月間、無料の日本料理特訓教室を開き、合格すると「途上国の日本公邸で働ける料理人」として認定・登録してきた。

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