意外に似ている二つの国

執筆者:徳岡孝夫2004年10月号

 昔のこと、シンガポールのホテルの前で「空港まで」とタクシーを拾い、乗ってからつい無意識に「国際空港だよ」と念を押した。運転手は「この国には国際空港しかないよ」と笑い、私もそうだったと苦笑した。その運転手とどこかの距離の話になり、私が「その間は何キロくらいあるの?」と訊くと、彼は「なに、三ハロンくらいのものさ」と答えた。 日本では競馬のときにしか使わないハロン(furlong)は、ヤード・ポンド法の単位で、英国でしか使わない。私は居ながらにして競馬場にいる気分になった。 あれは自分が植民地支配されていた時期を懐かしむ、少し珍しい国である。日本軍が迫ると見るや、ラッフルズ・ホテルのインド人ボーイたちは中庭を掘って銀器を埋めた。戦後イギリス人が戻ってくると掘り出し「はい旦那さま」と、いそいそテーブルに並べたという。 今度シンガポール首相になったリー・シェンロン(五二)は英ケンブリッジと米ハーバード大学を出た。彼のパパでシンガポール建国の父リー・クアンユー(八一)もケンブリッジを出ている。英国がよほど有難いらしく、パパは体調を損ねるとロンドンの病院に入院する。 だが、そこはやはり血筋で、大学教育で箔をつけても、リー家の本性は疑う余地もなくシナ人のそれである。もう少しハッキリ言えば、シンガポールと北朝鮮には、同じ中国周辺国の共通点がある。

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