民主党政権の時代だから相当以前のことになるが、昨年7月末、「野田首相が尖閣問題で自衛隊活用を示唆、中国は反論」という見出しの記事が各紙で報道された。7月26日の衆院本会議における野田発言は、「尖閣諸島を含む日本の領土、領海で周辺国による不法行為が発生した場合は、必要に応じて自衛隊を用いることも含め、政府全体で毅然として対応する」であった。これに対し中国は、27日、「いかなる者も中国の主権保護の意志と決心を動かすことはできない」と、反論を中国国際放送局が報じた。

 実はこの「自衛隊を用いる」という野田発言には、日本以外の国が見聞きすると極めて危険極まりない尖鋭な意味合いが盛り込まれている。

 日本では、「自衛隊は軍隊ではない」という政府の見解が繰り返され、憲法との距離を置いて来た。このため日本人には、「軍事」に対して普通の国の国民と異なった潜在意識が育ち、「自衛隊」が「陸・海・空軍」を意味すること、「用いる」ことが「国軍を出動させる」と同義であることの認識が希薄となった。

 であるからと言って、他国も同様の感覚で受け止めているとは考えられない。自衛隊の最高指揮官である野田前総理は、最も権威ある国政の場で、国際社会最大の武力行使を可とする軍隊という実力集団に出動を命ずる可能性を示唆した。軍事行動の発動は、仮にそれが準備段階であっても、国の防衛・安全保障上の「最終的な切り札」であり「戦争」への第一歩であることを思量すれば「言葉のインパクト」に思慮を欠く発言であったと言ってよい。

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