危急存亡――「電話からの撤退」を決めたAT&T

執筆者:津山恵子2004年11月号

通信量が減り続ける固定電話網に頼ってきたAT&Tが、いよいよ崖っ縁に立たされている。それでも次のビジネスモデルは見つからない――。[ニューヨーク発]米通信業界が大きな転機を迎えている。地域電話会社や携帯電話会社が収益拡大を謳歌する一方で、かつては電話会社の代名詞だったAT&Tは電子メールや携帯電話の普及で長距離電話事業の減収が続く。 日本のNTT分割のモデルでもあったAT&T、そして米通信業界そのものに、何が起きているのだろうか。     *「約八〇%の減益」――。 今年七月末、景気拡大で米企業が相次ぎ好調な四―六月期決算を発表する中で、AT&Tの決算は惨憺たるものだった。長く減収を続けている長距離電話事業と新たに参入した地域電話事業の双方で、新規の顧客受け付け停止に踏み切る方針も発表した。今後は企業向けデータ通信とIP(インターネットプロトコル)電話に経営資源を注ぎ込むという。これまでの顧客へのサービス提供は続けるものの、事実上、伝統的な電話ビジネスとの「決別宣言」である。 電話を発明したグラハム・ベル設立のベル電話会社を継承し、約半世紀に亘って米電話市場を独占してきた「巨人」AT&Tは、世界の電話文明の先達でもある。それが、もはや代表的な大企業で構成するニューヨーク証券取引所の株価指標、ダウ工業株三十種平均からも脱落してしまっているという現実。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。