「医者がくれる麻薬」に漬かるアメリカ

執筆者:ルイーズ・ブランソン2004年11月号

チェイニー副大統領の主治医やマケイン上院議員夫人も苦しんだ処方薬依存。日本にも鎮痛薬依存者は少なからずおり、他人事ではない。[ワシントン発]チェイニー米副大統領の主治医ゲアリー・マラコフは、長年にわたり政界エリートたちから最も尊敬される医師の一人であった。だが、もはや過去の栄光。先頃、突然、その任を解かれてしまったのだ。なぜか? 全米に何百万人といる処方薬乱用者の一人に彼が名を連ねることになったからだ。薬は強くなる一方で、気づいたときには完全な依存状態だった。そして今では、チェイニーの元主治医は、アメリカが直面する新たな薬物依存問題の象徴的存在となっている。 処方薬の乱用は、マリファナやコカイン、ヘロインなどの麻薬依存をも凌ぐ深刻な問題となりつつある。だが、今のアメリカは、まるで自分が依存症であるという事実を受け入れることのできないアルコール中毒者のようだ。 実際、チェイニーの主治医解任をめぐる報道にしても、メディアが問題にしたのは当人の薬物依存よりもむしろ、この医師によって書かれた副大統領の健康診断書が楽観的に過ぎる点だった。古い表現を借りれば「万が一大統領の心臓が止まった場合のバックアップ」であるべき副大統領が心臓に爆弾を抱えていながら、それが隠蔽されていたのでは具合が悪い。だが、それ以上に、米国民の間にはドラッグに対して「今さら何を」という食傷感が漂っている。有名人や公人の処方薬乱用が新聞紙面を飾らない日がひと月、一週間ともたないのが現状だからだ。

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