2月28日の国会での施政方針演説で安倍総理は、フォークランド紛争における英国サッチャー元首相の発言を引用し、「海における法の支配」に則り、「『力の行使による現状変更』は何も正当化しないことを、国際社会に対して訴えたい』」と、尖閣諸島など領土主権をめぐる政府の姿勢を強調した。

 引用の経緯を翌1日付東京新聞は、原稿の起草段階で「武力衝突も辞さないという強硬姿勢と誤解される」「あまりに過激だ」と周辺が懸念を示したが、フォークランド紛争において毅然と決断した元首相の姿に感銘した総理は譲らなかった、と伝えている。【http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013030102000128.html

 このフォークランド(マルビナス)紛争におけるイギリスの対応に引きつけて、領土主権の問題で日本の臨むべき姿勢を示すのはいささか深慮に欠けるといわざるを得ない。

 考慮すべき要素は、まず同紛争において中南米諸国が、「植民地主義の遺制」であるマルビナス諸島を「奪還した」アルゼンチンをこぞって支持する中で、態度を迫られた日本政府は、中南米における日系社会への配慮等から、最終的に中立を貫いたという事実である。奪われた島を再度奪還しようとしたサッチャー元首相の毅然たる決断に感銘するという意味で好意的に解釈するとしても、同紛争において日本が「海における法の支配」に則り、英国を支持していたとすればともかくも、そうでなかったのであるから、引用は日本外交の首尾一貫性を損なう恐れがある。演説に当たり、外務省中南米局との調整がなされたとは思われず、この点で、この引用は総理の勇み足と言うべきものではないか。

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