胡錦濤が軍に打ち込んだ楔

執筆者:藤田洋毅2013年3月8日
 党中央軍事委の筆頭副主席に就任した「黒馬(ダークホース)」の范長龍(右から2人目)(c)AFP=時事
党中央軍事委の筆頭副主席に就任した「黒馬(ダークホース)」の范長龍(右から2人目)(c)AFP=時事

 江沢民が務めた人事総顧問の役割は「新たな指導部選出に際し政治局の求めに応じ補佐、助言する」が定説。ただし具体的な権限については、党中央委員及び同候補、政治局員・政治局常務委員選びで、①拒否権を持つ、②拒否権と提案権を併せ持つ、の2説ある。いずれの説をとるにせよ、江沢民が首を縦にふらない限り人事は成立せず、結果的に大会日程すら決められない仕組みという。江は曾慶紅(元政治局常務委員・国家副主席)・周永康(前政治局常務委員・党中央政法委書記)の加勢も得て、胡錦濤の人事構想を棚上げし、とたんに胡の勢いは削がれた。

 日付は不明だが「8月末か9月初旬ころ」、第18回党大会(18大)に向け「最大の山場があった」と党と国務院中枢の2人の幹部は一致した。

「胡・温家宝・習近平の3人だけで、じっくり話し合った」のだという。話し合いの様子を明かした2人の現役幹部に加え、国務院の老幹部らの断片情報を総合すると――。

 

「党中央軍事委主席」の特殊性

 胡はすでに北戴河会議で「全面引退」の意向を表明、周囲は引き止めにかかっていた。2002年の16大で江が総書記から退く際も周囲は慰留したし、特に軍高官は党中央軍事委員会主席からの引退には強く反対した経緯がある。江の在任中に党・政府の幹部は同一ランク・職務には2期10年までしかとどまれないとする任期規定を設けたものの、軍には同様の規定はない。そもそも軍には引退年齢規定すらなく、いまだに党・政府幹部向けのルールを援用していると説明するのみ。

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