チャーチル時代の体罰

執筆者:徳岡孝夫2013年3月19日

 バーネット夫人が書いて世界的ベストセラーになり、日本では若松賤子の名訳で名高い『小公子』(1886年)の、粗筋をおさらいしておく。

 ニューヨークの下町で船積み人足など労働者の間に育ったセドリック少年の許へ、思いがけない知らせが舞い込む。

 イギリスの古城に住む侯爵が老齢に達し世継ぎを探した。ただ1人、昔アメリカ女性と恋をして結婚し英国を捨ててニューヨークに出奔した息子しか爵位と財産を継ぐ者がいない。その息子はすでに病死したから、侯爵家を継ぐ資格ある者はセドリックしかいない。どうか一度イギリスに来て、侯爵と面談してくれないか。

 

 セドリックは海路はるばる祖父に会いに行く。平民のくせに侯爵の息子を奪ったセドリックの母は、お城に入れてもらえず、外で待てと命じられる。

 祖父の部屋に案内されたセドリックは怖じる色など少しもなく「ハロー、元気ですか」と手を差しのべる。何たる無礼か。老侯爵はびっくりする。

 だが話すうちに徐々に打ち解けた祖父と孫は、英国的な身分社会と米国的な民主主義、平民主義の利点・欠点に目覚める。頑固な祖父はセドリックの母を招き入れる。祖父・嫁・孫が和解する。「世継ぎもの」小説の一例で、『小公子』はセドリックが着ていた紺のシャツに白いレースの首回りの男児用「セドリック服」が世界中に流行したほど「当たった」小説だった。

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