「税金を払わない名士」堤義明の退場

執筆者:喜文康隆2004年12月号

「父は晩年……自らを評して、『まことに無邪気で他愛のない人間』と分析している。その無邪気さ、他愛のなさが、どれだけ身近の人間を破滅させ、精神の髄まで抜いてしまったかについては頓着なく」(辻井喬『父の肖像』)     * コクド・西武鉄道グループのあっけない凋落について、おそらく総帥の堤義明自身、いったい何が起こり何が進行しているのかを、現在でも十分に理解できていないのではないか。 三月の西武鉄道の総会屋に対する利益供与事件、そして半年後に表面化した、西武鉄道の株主についての虚偽記載問題をきっかけに、堤義明は西武グループのあらゆるポストから退任し、西武鉄道の株価は急落している。 とはいえ、堤義明は、彼を追い落とした“世間の不条理”がどうやら世間の常識と呼ばれるものだったことだけは認識せざるを得なかったに違いない。ただ、壊れたのは義明にとっての常識だけではない。コクド・西武グループの生存を可能にしてきたビジネスモデル自体が壊れたのである。秋の叙勲の皮肉 十一月三日に発表された秋の叙勲、とりわけ民間経営者の人選は西武グループの現状と重ね合わせるとなんとも皮肉だった。旭日大綬章に清水仁東急電鉄会長と土井定包元大和証券会長も選ばれたのである。二〇〇三年秋からの制度見直しによって、民間人の評価を格上げしたとはいえ、これまで財界四団体の長でさえもらえないこともあった最高章の「旭」を、一九九〇年以降のバブル崩壊の波をまともにかぶった東急電鉄や大和証券の経営者が受章した。特に、東急電鉄のサラリーマン経営者、清水の受章と西武グループの堤義明の凋落は象徴的である。

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