その外見と人当たりの良さから「お月様」とも称される町田長官。制度改革に面従腹背の司法官僚の意を汲むか、それとも新たなビジョンを示すのか。「こんな司法改革なんて本当に必要だと思いますか。政治家が起訴されても全員無罪になるとか、反体制の者は皆死刑になるとか、司法制度の信頼性が揺らいで国民に見放されているなら話は別でしょう。だが、大筋でわれわれ職業裁判官による裁判は支持されている。それなのに、学者の意見に改革好きの首相が乗っかってここまで来てしまった。このままではこの国は今にひどいことになると思いませんか」 市民が刑事裁判に参加する裁判員法が国会で成立した五月二十一日のこと。最高裁判所事務総局のある裁判官は、静かな口調の裏に、強い憤懣を隠しきれずにいた。言葉の端々に超難関の司法試験を上位でくぐり抜けたプライドがのぞく。最高裁事務総局に配置される裁判官はその中でも選りすぐりのエリートなのだ。 司法制度改革の大きなヤマだった裁判員制度の実施が五年後と決まり、関連法案は十月中にすべて提出された。司法制度の在り方を議論してきた政府の改革推進本部も十一月末で解散。今後は、裁判の進め方や裁判官の関与の方法など、具体的な中身をつめる作業のバトンが最高裁に渡される。最高裁はこれまで司法制度改革のメンバーに名前を連ねてきたものの、「政治家の決めることに口出しできない」として議論が思惑と異なる方向に進むのを傍観してきた。政治家主導の改革を実務レベルで押し戻すべく、これから町田顕最高裁長官(六八)を頂点とする司法官僚の反撃が始まるとみられている。

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