ブッシュ米大統領が再選した。ホワイトハウスの外交スタッフ人事が早くもうわさになる。本書『官邸外交』(朝日選書)はそんなワシントンの雰囲気を経験した著者が日本の首相官邸の外交機能を分析したものであり、学者の筆になる類書は少ないようだ。 著者によれば、「官邸外交」とは「外交の場面で外務省では対応できない政治判断と総合政策調整を内閣官房主体で行っている現象」である。本書は、その例として小泉政権下でのテロ対策特措法、有事関連法、イラク特措法の成立、イラクへの自衛隊派遣の決定などの過程をとりあげ、それぞれの動きのひだを丹念に振り返る。これらを各論とすれば、総論では中曽根政権以降の官邸の機能強化や官邸外交の問題点を指摘する。 著者の信田智人氏(国際大学助教授)は学者なのだろうか。本書に限らず、著者の仕事はいつもそんなことを考えさせる。否定的な意味ではない。称賛すべきは着眼点の良さである。学者とジャーナリストの仕事の間に明確な区分があるわけではないのだから、こういう仕事は、むしろジャーナリストによってなされるべきだったのではないか。そんなジャーナリスト側の自戒である。 伝統的な日本の学者たちが本書のような研究をどう受け止めるかは知らない。彼らと著者とを比べると、手法に明確な違いがあるように思える。本書が扱う分野を学問用語で表現すれば、政治過程論、あるいは現代外交史とでも呼べるだろうか。

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