“経営の神様”は新党旗揚げを目前に世を去った。初めて明かされる内部資料をもとに、その全貌を描く。〈このたび私どもは、わが国が直面する容易ならざる危機的情況に鑑み、国内外に山積する諸問題を解決し、わが国に真の安定発展をもたらしうる政治の実現をはかるべく、新政党の結成を発意いたしました。以下にその発意に至る経偉の概略と新政党結成の趣旨を記し、心ある国民各位のご支持、ご参画を切望するものであります〉(原文ママ・以下同) 自民党の長期政権下にあった一九八五年(昭和六十年)、日本の政治をひっくり返そうと画策していた老人がいた。 松下電器産業創業者、松下幸之助。当時、すでに九十歳という高齢ながら、長年の悲願であった新党の設立を極秘に進めていたのである。冒頭に記したのは、その新党の準備段階でつくられた「設立趣意書」の一節だ。 新党で戦う初めての選挙は、八九年(平成元年)の参議院選挙を想定していた。消費税導入への反発やリクルート事件、時の首相・宇野宗佑の女性スキャンダルによって、自民党が過半数割れの大敗を喫した選挙である。この選挙で幸之助は足場を築き、翌九〇年の衆院選で政権に一気に近づこうと目論んでいた。

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