シリアのアル=カーイダ系組織の不穏な動向

執筆者:池内恵2013年4月12日

  シリアでアサド政権の領域支配の溶解がじりじりと進む。しかしシリア現地の反政府軍は、それぞれの場所で蜂起し、それぞれの手蔓で武器を入手した武装民兵諸集団の総体であり、指揮命令系統が統一された「自由シリア軍」は存在しないと言っていい。欧米諸国、とくに米国が武器供与を渋るのも、周辺諸国や欧米諸国から、さらにはイスラーム世界全体から集まる義勇兵の性質が読み切れないからである。特に、自爆テロを多用し、アル=カーイダへの共鳴が知られるヌスラ戦線(Jabha al-Nusra; Nusra Front)の動向が注目されてきた。

 ここのところ、シリアと周辺国の武装勢力による、「アル=カーイダ」への帰属や、諸集団間の合同を宣言する声明が矢継ぎ早に出された。4月7日に、9・11事件を首謀しパキスタン・アフガニスタン国境地帯に根を張る「元祖」アル=カーイダの指導者アイマン・ザワーヒリー(Ayman al-Zawahiri)が、インターネット上で公開した音声による声明で、「シリアにイスラーム国家を設立せよ」と煽った。 これは珍しいことではなく、シリアで騒乱が始まって以来ザワーヒリーは幾度もこうした「口先介入」を行っている。米軍に追われ、地下に潜ったザワーヒリーらの「アル=カーイダ本体」が、果たしてシリアの内戦の現場にどれだけ影響力を行使し、実際に資金や人員を送り込んでいるか、懐疑的な見方をする専門家も多い。シリアの諸勢力がザワーヒリーの指示の下に戦っているとは考えにくい。

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