焦れば落とし穴にはまる「北方領土問題」

執筆者:藤村幹雄2005年1月号

中国に続き日本との間の領土問題「幕引き」を考え始めたプーチン大統領。だからといって譲歩してくると考えるのは甘すぎる……。[モスクワ発]十一月二十一日、チリで行なわれた日露首脳会談は、北方領土問題の細部に踏み込まず、プーチン訪日の時期も設定できなかった。小泉純一郎首相が「二〇〇五年三月末からの愛知万博でロシアが提供するマンモスの前評判が非常に高い。訪日が万博と絡めば日露友好に貢献する」と述べると、プーチン大統領は「素晴らしいアイデアだ」と応じたと説明されたが、実は一度だけ緊迫したやり取りがあった。 ロシア外務省筋によれば、プーチン大統領は突然真剣な表情で、「気を悪くしてもらいたくないが、日本側は領土問題を国内政治の目的に利用していることはないのか」と質した。小泉首相は「そんなことは絶対にない」と全面否定したという。 旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で情報のプロのプーチン大統領は、小泉首相が北朝鮮による拉致問題を内政に利用していることを知っており、九月の首相の北方領土視察をみて、牽制した可能性がある。あるいは今後の本格交渉を控えて、真剣に対応してくれというメッセージだったかもしれない。 強固な政権基盤を固めた二期目のプーチン大統領が、隣国との領土問題解決に着手したことは間違いない。七月にロシア外務省で行なった外交演説では、中国、インド、日本を挙げて、アジア・太平洋外交の強化を表明、特に「極東・シベリア地域の内政課題解決とリンクさせたアジア外交」を訴えた。

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