中国原潜「領海侵入事件」が起こした波紋

執筆者:藤田洋毅2005年1月号

胡錦濤が日本にも関わるある“軌道修正”を始めた矢先に事件は起こった。だが、その後の対応はなかなかにしたたかだ。「新潟県中越地震と中国の原子力潜水艦の領海侵入事件の“共通項”はなにか」。日米防衛交流や防衛庁内部の動きに詳しい日本政府筋が、奇妙なナゾをかけてきた。 想像もつかない。ヒントを乞うと、「対潜哨戒機P3Cがキーワード」だという。十一月十日に起きた中国原潜事件の探知・追跡にP3Cが大活躍したのは知っているがと、なおも首をひねっていると、手もとのパソコン画面の防衛庁ホームページを指し示された。中越地震当日の十月二十三日十八時五十七分、ヘリに続きはやばやと海上自衛隊のP3Cが厚木基地を飛び立っていたのだ。 P3Cは、当時策定中だった中期防衛力整備計画で財務省から保有数の削減を求められていた。「災害と事件を通じ、P3Cが改めて存在感をアピールしたのが共通項」と同筋は続け、「しかし、狙いすましたようなこの時期のP3Cの“活躍”からは、不自然さが拭えない」と語った。 何より不自然なのは、地震の被害状況把握のためならP3Cを飛ばす必要はないこと。P3Cはその名の通り潜水艦を対象とする装備であり、地上の目標物に対する機能は「窓から視認できるだけ」。ことに夜間の地上確認は「まったく不向き」だ。防衛庁ホームページは「長岡市付近2ヵ所火災確認」とP3Cの“戦果”を報告するが、「赤外線暗視装置などを装備するヘリなら現場住所から火災の状況までずっと詳しく伝えられる」のだ。「財務省案に抵抗するため花火を上げているのか。白い制服さん(=海自)は抜け目がないなあ」――同筋がこんな感想を抱いていたところに原潜侵入事件が発生した。

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