巷には、ありとあらゆる分野の著名人の回想録が溢れています。芸能人、スポーツ選手、学者、政治家……。私は、こうした回想録を読むのがけっこう好きです。どんな分野の著名人のものでも。ただし、一つだけ条件があります。本人が書いているもの。他の人が代筆しているのに本人が書いたと嘘をついてるのは駄目です(このテの嘘が実に多いですね。特に日本の著名人の場合)。 平気で嘘をつくような人の回想録を読んだって何の意味もありません。嘘つきの人の回想って一体何なんだろうって思いますよ……。ちなみに、本人が書いているかどうかは、最初の数ページを読めば簡単にわかります。本人が書いている回想録にも多少の嘘というか、脚色がつきものです。これは仕方ないことかもしれませんが、やっぱり脚色はない方がイイに決まっています。 ジャン・ドーセ著『生命のつぶやき――HLAへの大いなる旅』(集英社)は間違いなく本人が書いた回想録で、ほとんど脚色もありません(回想録が好きな私が保証します)。本人が書いていて脚色のない回想録であれば面白いとは限りませんが、この回想録は面白い。しかも飛び切り。 ジャン・ドーセはフランスの著名な医師で、一九八〇年度ノーベル医学・生理学賞を受賞しています。受賞対象となったのは、HLAシステムの発見。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。