シオニズムの本質を射抜いた名著

執筆者:立山良司2005年1月号

『ユダヤ人問題とシオニズムの歴史』A History of Zionismウォルター・ラカー著/高坂誠訳第三書館 1987年刊 イスラエルの首相アリエル・シャロンについてこのところ、「変わった」「変わらない」という二つの見方が交錯している。 米国外交問題評議会上級研究員で元米国ユダヤ人会議常任理事のヘンリー・シーグマンは「ガザ地区からの撤退構想は単なる時間稼ぎだ。シャロンが占領地保持を絶対視し、パレスチナ国家樹立を断固拒否する大イスラエル主義者であることに何の変わりもない」と手厳しい。 一方、イスラエル紙「ハアレツ」の編集委員で和平支持者のアキバ・エルダールは「シーグマンのように米国から見ていてもシャロンの変化はわからない。彼は今やパレスチナ国家を容認する立場に変わった」とシャロンのハト派転向説を掲げている。 今の段階でどちらが正しいかを判断する材料はない。しかし、この二つの相反するイメージは、シオニズムが“原罪”として抱え込み、イスラエルがずっと直面してきた「国家の安全や安寧」と「パレスチナ全土に対する支配」のどちらを優先させるかという、根本的な問題にそのまま直結している。 英国の歴史家アルフレッド・コバンが「十九世紀は民族主義の世紀」と述べたように、フランス革命以降のヨーロッパで時代の主潮流となったのが民族主義だった。ユダヤ人もこの奔流に呑み込まれ、ユダヤ人国家樹立を目指したシオニズムが生まれた。ヨーロッパ一円、さらに米国でも展開されたシオニズム運動は、思想的にもユートピア的な理想主義や社会主義、リベラルな人道主義、急進的な自民族優先主義、さらに世俗主義や救世主主義など実に多様な側面を持っている。

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