「ウォッフ、ウォッフ」――猿かゴリラの咆哮のような声が響き渡った。昨年十一月、スペインの首都マドリードで行なわれたサッカー親善試合、スペイン対イングランド戦での出来事だ。試合中、スペイン人サポーター数人が、アフリカ系の一部選手を「猿に見立てる」という人種差別行為を行なったとして、世界中にニュースが流れた。 その後も、引き続き何試合かで同様の問題が発生。地元スペインのメディアも、連鎖的な広がりを警戒し、「われわれは差別国家か」などの見出しを並べ、しばらく議論が止まなかった。しかし、実態は、差別国家というよりも外国人に対する意識の低い「外国人オンチ」の国で、それこそが「差別的」問題を引き起こしてしまったのだ。 そもそも発端は、スペイン代表チーム監督ルイス・アラゴネスが、英国アーセナルに移籍したスペイン代表選手レジェスを鼓舞しようと、「(フランス代表アンリを指し)あのネグロ(黒人)にお前のほうが一枚上だと示してやれ」と述べたことだ。英国各紙が一斉に「差別発言」と報じた。 それに対する反応がいかにもスペイン人だった。「言われたらもっと言い返す」。以後、欧州チャンピオンズ・リーグやスペイン1部リーグなどの試合で、観客席からブラジルやアフリカ出身のスター選手に対し、「猿の物真似」や「黒人コール」という軽蔑行為が繰り返され、事態が悪化していった。

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