毛沢東をめぐる中国社会の深い亀裂

執筆者:野嶋剛2013年5月29日

 中国で最も影響力のある経済学者の1人で、市場経済と民主主義の必要性を訴えて常に大胆な発言を行なってきた茅于軾が最近、公の場でその「後世に与えた悪しき影響」をめぐって毛沢東のことを痛罵し、話題を集めている。

 茅于軾は中国では右派と認定されることが多く、大躍進から文革時代には農村に送られて貧困と重労働にあえぐ暮らしを送った。鉄道の専門家から経済の研究者に転じ、社会科学院を退職後は友人の経済学者などとシンクタンクを作って現在84歳という高齢にありながら積極的に言論・研究活動を続けている。

 茅于軾はかつて毛沢東の神格化を批判した「毛沢東を人間に」という主張で左派から猛攻撃を受けたこともあったが、いま毛沢東が復活しつつある現状に耐えきれず、改めて毛沢東攻撃の火蓋を切った形だ。

 茅于軾は最近北京で開かれたシンポジウムの場で「毛沢東の闘争哲学は中国の子孫を害している」と指摘した。

「1949年までの中国人は倫理も道徳もあった。台湾はいまでも礼儀や羞恥心、孝行や仁愛など中国の伝統的な考えを維持しているが、中国は歴史の中でお互いに闘争を繰り返し、他者への優しさや謙譲、羞恥心などを失い、危険な社会になってしまっている」

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