厚労省とミドリ十字が27年放置した「薬害」

執筆者:沢木実緒2005年2月号

「公表がもっと早ければ救えた命もあったはずだ」 十二月九日、日本の血液行政を司る厚生労働省は、薬害被害者の激しい怒りにさらされた。旧ミドリ十字(現三菱ウェルファーマ)の血液製剤「フィブリノゲン」によるC型肝炎感染問題が発覚してから十七年の月日を経て、やっと全納入先にあたる約七千カ所の医療機関を初めて公表したのである。同省には公表直後から問い合わせ電話が殺到し、その数は年末までに一万件を超えた。“沈黙の臓器”と呼ばれる肝臓は、異常が症状として表れにくい。ウイルスに感染して兆候のないまま肝炎から肝臓癌や肝硬変へと進み、気付いた時には手遅れということも珍しくない。実際、肝臓癌による死者の七割以上がC型肝炎の患者で、国内感染者だけで少なくとも百五十万人はいるとされる。「遅すぎた公表」に至るまでの経緯が浮き彫りにしたのは、HIVやヤコブ病と同様に国と製薬会社による薬害の構図だった。 フィブリノゲンは血漿の中に含まれる凝固成分のひとつで、これを分離精製して製剤する。現在は用途が限られているが、一九八〇年代には産婦人科の止血などに広く使われ、投与を受けた人は数十万人に及んでいた。人の血液を原料とするため、ウイルス感染の危険性は専門家にはある程度知られていた。

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