テムズ両岸は「情報集積地」

執筆者:竹田いさみ2005年2月号

 ロンドンまではおよそ十三時間の旅だ。日本海を越え、シベリア上空の雲海を突き抜けると、一面雪で覆われたロシア連邦の大地が眼に飛び込んでくる。ロシア上空の長いフライトがようやく終わると、パイロットはバルト海から北海へと操縦桿を切る。ドーヴァー海峡のやや北方に流れ込むテムズ川の河口から上流へと遡るにしたがって、飛行機の高度が徐々に下がっていく。 日本からのフライトは、ロンドンの中心部を横切ってヒースロー空港へ到着するため、天気がよければロンドン市内が絵葉書のようにくっきりと見える。下流から上流へ向かい、造船所、グリニッジ天文台、ロンドン塔、セントポール寺院、金融街シティの卵型ビル、ビッグベンと英国議会、都市型庭園ハイドパーク、バッキンガム宮殿などが、手に取るように見えるのだ。 蛇行するテムズの川幅が急に狭まると、世界の植物園の原型となったキュー・ガーデンが眼下に広がる。熱帯・亜熱帯地方から採取した世界中の植物が、ガラス張りの巨大な温室で栽培されている。単なる観賞のためではない。植民地統治の知恵が集積されている植物園でもある。 ロンドンを貫通するテムズ川は、ハイテクや情報産業の集積地としての歴史をもつ。産業革命の時代からベンチャービジネスの拠点として、世界中の情報が交差してきた。カティーサークはウィスキーの銘柄だが、もともとは十九世紀に極東海域からお茶、香辛料、豪州産の羊毛などを輸送した高速帆船。こうした貿易船は、特産品とともに最新情報ももたらすため、情報交換の場としてコーヒーショップが繁盛し、さらに最新情報を提供するロイター通信が登場した。その中心に金融街シティが君臨する。世界貿易にはリスクが伴うので、リスクをヘッジするためにロイズ保険が組織され、また、船舶の造船クォリティーを高めるためにロイズ・レジスター社が生まれた。

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