倒れかけたら内側へ押そう

執筆者:徳岡孝夫2005年2月号

 これまでの日朝交渉でわれわれが得た結論は、金正日とその手下は、恥知らずのウソつきであるということだった。そのうえ彼らは虚勢を張る。 日本外務省が二十年間必死に抑えてきた横田さんら拉致被害者家族の声が、抑えきれなくなったとき、食糧援助を話し合う席で日本側が一言「拉致の問題が……」と口を滑らせた。北朝鮮の代表は、たちまち激昂した。「我が国は拉致などしていない」と言った。 また日本の記者団が、東京だか北京だかで、やはり北朝鮮高官を囲み、うち一人が「拉致」を口にした。途端に高官はキッとなり「その言葉を使うな。それを言うと日朝関係はこじれる」と怒った。北朝鮮の機嫌を損ねたくない日本の左翼新聞は、しばらく拉致被害者を「行方不明者」と言い換えた。小泉首相が初めて金正日に会う、ほんの一年か二年前のことである。 日本人が寧辺という地名を聞き始めたのは、それより少し前だった。言うこと為すこと信用のおけない国が核弾頭を持てば、世界はおしまいである。すでに弾頭何個分かを持っていると、分析や情報が乱れ飛んだ。半信半疑でいると北朝鮮の弾道ミサイルが、断りもなしに日本人の頭上を通過した。北朝鮮代表は日本のコメ支援担当者との会談の場で「われわれには日本全土を射程内に収める兵器があるのをお忘れなく」と脅した。

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