一月三十日のイラク国民議会選挙では、シーア派とクルド住民を中心に投票への広範な参加がみられた。選挙の敢行によって、イラク国家再建プロセスの成功が約束されたわけではなく、テロ攻撃が止むわけでもない。しかし、イラクの政府機関職員の上層から末端の労働者・求職者までを対象にした攻撃が、イラクの大多数の意思を体現したものではないことは示された。 いうまでもなく、今回の選挙で地歩を固めたのはシーア派諸勢力であり、選挙は彼らがイラク政治の主体としての存在を内外に鮮明にした瞬間であった。シーア派諸政党は選挙への動員力を示すことで、イラク国家再建プロセスの主導権を握った。 日本では、イラクのシーア派は誤解と曲解のヴェールに包まれており、そのことがイラク政治の展開を理解する妨げになっている。ここでイラクのシーア派が分析される際の主要な論点を検討しておきたい。▼シーア派の伸張は内戦を導く? シーア派勢力の伸張に対しては「内戦の危機」が語られることが多い。しかし少なくとも、「シーア派勢力が選挙での勝利を背景にスンニー派勢力への宗教的・政治的圧迫を始め、スンニー派がそれに対抗して内戦が勃発する」などというシナリオは、現在のところ想定できない。

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