トヨタが迫られる「増配」の歴史的意味

執筆者:喜文康隆2005年3月号

「優良企業が『配当率に固執した安定配当主義を打破し、配当性向主義をとり入れる』……それを株主に対する優遇というのは、会社が挙げた会社の利益を、会社から株主にも分けてあげましょうというような考え方でみているように思われる。私にいわせればカイゼルのものをカイゼルに返すだけである」(谷村裕『株主勘定復活論』)     * 二月三日、二〇〇四年十―十二月期の決算発表の席上で、トヨタ自動車の荒木隆司副社長は「単独決算だけではなく連結決算も考慮したうえで、配当政策を考えたい」と、今三月期の増配を示唆した。 先立つこと三カ月、昨年十一月一日には、奥田碩会長自ら初めて経営説明会に参加して、「(業績の変化に見合って株価があがらないことは)私の疑問でもある」と語り、株価への苛立ちを率直に表明した。 利益一兆円企業として、怖いものなしといわれるトヨタだが、株式市場の反応はいまひとつである。一株当たりの利益は、奥田が会長に就任した五年前に比べて四倍近く増えているにもかかわらず、この間の株価上昇率は二〇%程にとどまっている。「株式市場はいったい何を考えているのか」という奥田の想いもわからないではない。 四半世紀前、トヨタは“トヨタ銀行”と呼ばれるほど巨額のキャッシュを抱えながら、「株主に報いない企業」との評価が定着していた。トヨタの財務戦略を一手に握っていた花井正八会長(故人)の「これからGMやベンツと世界で渡り合うにはこの程度のキャッシュではまだまだ足りまへんで」という独特の三河弁がいまでも浮かんでくる。

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