一月二十日。米連邦議会議事堂の正面で行なわれたブッシュ米大統領の二期目就任式を、屋外の演壇のすぐ真下から見た。前日、ワシントンに今冬初めて雪を積もらせた雲は去り、雄壮な議事堂の上の空は青く晴れ上がった。式典を見上げながら、読み始めた塩野七生さんの新著である本書『最後の努力―ローマ人の物語13』の一節を思い出した。「皇帝になるには何よりもまず、元老院の承認と市民たちの同意が必要だった。新皇帝は…元老院で就任の演説をし、その後で元老院の議場の近くにあるロストラと通称された演壇の上に立ち、市民たちに就任の挨拶をする。…カピトリーノの丘に登り、神殿に参って神々の援助を乞う」 神殿のあったローマ一の高台がカピトリーノの丘。英語ではキャピトル・ヒルであり、それは議事堂のあるワシントン一の高台の名でもある。 ブッシュ大統領はここに仮設された演壇から、ローマ元老院と同じセネトという名で呼ばれる連邦議会上院の議員や、集まった数十万の市民を前に就任の挨拶をし、演説をやはり神に支援を乞うて結んだ。「神がアメリカ合衆国を見守られんように」。「建国の父祖」らが夢みたように、米国はまさに新しい「ローマ」となった。議会や地方の権限が強かった初期の小さな「共和国」から、国力拡張にともない強大な権限を得た大統領と世界に展開する強力な軍を持つ「帝国」へ。戦争後の「敗者同化路線」なども含め、興隆の軌跡も似ている。

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