誰が選ばれるにしても、新総裁の前途は多難。存在意義すら問われる一方で、世界銀行自体の財政は悪化していく――。[ワシントン発]十年にわたって世界銀行を率いてきたジェームズ・ウォルフェンソン総裁が五月三十一日に退任する。批判は浴びたが、リーダーシップを発揮したことも間違いない。この十年、世銀は組織の規模も業務内容も拡大させ、国際開発機関として頭一つ抜ける存在に返り咲いた。ウォルフェンソンは貧しい人々の声に耳を傾け、それを政策に反映させていった。 とはいえ、ウォルフェンソンは数々の問題を未解決のまま残していった総裁としても記憶されることになるだろう。未だ決まっていない次期総裁がどのような采配を振るうかによって、世銀の将来は決まる。開発分野の中心的機関という地位を維持できるか、あるいは、ウォルフェンソン就任以前の批判の的だった組織に後戻りするのか、世銀はまさに岐路に立っている。 いずれにせよ、世銀が今の立場に踏みとどまるのは恐ろしく困難であることは確かだ。現時点では財政面の問題はないものの、運営コストが膨らむ一方で収入は減りつつあり、財政の健全性がこの先揺らぐことは疑いない。また、将来、国境をまたがる地域や戦争で荒廃した国で援助ニーズが増えるにつれて、業務の困難性は増すだろう。さらに、国営企業の民営化、貿易自由化、民間セクターの振興、そしてインフラ部門への支援を世銀が強めていることは、再び、グローバリゼーションに反対する市民団体から批判される。これだけの課題があることを考えると、ウォルフェンソンの後継者は、経営者であり政治家であり、かつ夢想家の素質を備えている必要がある。

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