イタリアのミラノ・マルペンサ空港からアリタリア航空機に乗り込み、二時間ほど南下する。地中海を眼下に、高度が急に下がったと思った瞬間、淡路島の半分程度のマルタ島が視界に飛び込んできた。「海に浮かぶ」という表現がぴったりのマルタは、大中小の三つの島からなる。人口はわずか三十九万人。 天然資源に乏しく、主な産業といえば観光や造船で、なかでも世界遺産に登録されている城壁都市バレッタが売り物だ。海岸には高級リゾートホテルが立ち並び、南フランスやモナコほど高値ではないため、手ごろな値段でリゾートライフが楽しめると好評。多数のヨーロッパ人が休暇で滞在している。地中海の十字路に位置し、小国で政治的にも「汚れていない」ため、イスラエル人やアラブ人も数多く訪れるという。 地中海の歴史を繙けば、必ずといっていいほどマルタは登場する。フェニキア商人が地中海貿易の中継地として活用したのも、ロードス島を追われたヨハネ騎士団が拠を構え、オスマントルコ軍を相手に戦ったのも、ここであった。一九八九年十二月、冷戦の終焉を告げた米ソの首脳会談は、マルタ沖の船上で行なわれた。 小国が繁栄するためには、それなりの知恵が必要だ。たとえ小国でも、人材・構想・資金・ネットワークをうまく組み合わせることで、思わぬ力を発揮できる。その代表例が、マルタにある国際海洋法を専門とする小さな研究所だ。バレッタ市内を見下ろす小高い丘にあるマルタ大学の敷地内に、国連の専門機関IMO(国際海事機関)とタイアップした国際海洋法研究所(IMLI)がある。

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