エジプト軍部が「民衆の名の下に」クーデタを行った。7月3日夜9時(日本時間4日朝4時)から、スィースィー国防相が、国営テレビで放映された映像の中で声明を読み上げた。憲法を停止。ムルスィー大統領は解任。アドリー・マンスール最高憲法裁判所長官が実権の定かでない暫定大統領に就任する。大統領選挙を早期に行い、選挙法改正を急ぎ新しい議会選挙の早期実施を目指す。当面はテクノクラートを中心の小規模の内閣を任命して行政を行う。幅広い諸勢力を含む委員会を設置する【概要の英訳】。

 しかも軍部は宗教権威をも連座させた。スィースィーのテレビ演説には、イスラーム教学の頂点に立つアズハル総長と、コプト教大司教も従えていた。彼らに順番に登壇させ、軍の動きを承認する発言をさせる念の入れようだった。さらに道化のように、ノーベル平和賞受賞者のバラダイ前IAEA事務総長までもが後に続いた。強権発動を正当化する演説を強いられた彼らの威信は傷ついた。クーデタへの加担は、宗教者の超越性とも、民主化活動家の信頼性とも相容れない。

「人民」の名の下に民主主義を放棄

 6月30日のデモの規模が空前のものだったとはいえ、自由で公正な選挙によって選ばれ、特に大きな人権侵害を行ったわけでもないムルスィー大統領を、たった一年で、軍の武力を背景に排除したことは、エジプトの民主主義の発展に大きな傷を残した。巨視的に歴史上のさまざまな革命を振り返れば、さほど珍しくもない光景ではあるが、目の前で生じるのを見る機会はそれほど多くない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。