社会保険庁「解体」に便乗する者たち

執筆者:山田利三2005年4月号

腐り切った組織の解体を早めたものの、自民党にあったのは「恨み」だけ。その陰で厚生労働省は「省益」の拡大を狙っている。「新聞の見出しに『解体』の文字が躍るような会見をして下さい」 一月二十八日、首相官邸。「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」の終了後、尾辻秀久厚生労働相は座長を務める金子晃・慶応大名誉教授のもとに駆け寄り、そう耳打ちした。金子座長は会議後の記者会見で「現行組織を前提としないで議論する」と明言。この瞬間、「社保庁解体」の方向性は事実上定まった。 尾辻厚労相はなぜ「解体」を強調したかったのか。同庁が組織ぐるみで業者からパンフレットなどの監修料六億円を受け取っていたという「公金着服」の実態が明るみに出る中、当日の有識者会議でガバナンス(内部統制)欠如への批判が噴出したこともある。だが、それだけではない。厚労省の外局である社保庁は、本省の立案する政策を実行に移す「下請け機関」にすぎない。耳打ちの背後には、社保庁解体すら奇貨として省益温存を図る厚労省の思惑が透けて見える。「社保庁の組織改革案はこれをたたき台に意見交換し、次回三月三十一日に踏み込んだ案を示したい」 金子座長が「新しい組織に関する金子メモ」と記されたペーパーを有識者会議の七人のメンバーに配ったのは二月二十一日のこと。社会保険庁解体後の新組織の骨格を三月末までに固め、五月に最終案を出す――金子メモは、そのためのグリーンペーパー(たたき台)である。

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