三月二十四日、インド製薬大手のマトリックス・ラボラトリーズは、中国でMCHEMファーマ・グループの経営権を取得すると発表。MCHEMとその関連企業の株式の六〇%を買収する。MCHEMは福建省厦門を拠点とするメーカーで、エイズ治療薬の分野では中国政府に製品を納入する有力企業だ。 インド勢が中国の医薬品市場に本格参入するのはこれが初。しかし、「他にも多数の企業が中国勢の買収を検討している」とインドの業界関係者は指摘する。直接的には「インドで医薬品特許関連の法整備が進んだ」(同前)ことがきっかけだが、より大きな構図で考えると、また違った絵も見えてくる。 一九八〇年代から始まった製薬外資の中国進出は、いまや加速が著しい。スイスのロシュや英アストラゼネカが研究開発センターを開設。米ファイザーも中国本社を設立するなど欧米大手は本腰を入れ始めた。狙いはまず第一に将来を見据えた市場開拓にある。中国の医薬品市場は約一兆円。まだ大市場とはいえないものの、その将来性は高く、市場規模は二〇一〇年までに日本並み(年間約六兆円)になると見られている。 だが見逃せないのは、欧米メーカーが中国を新薬の研究開発拠点として活用しようとしていることだろう。中国で臨床試験を行なえば、コストは欧米の十分の一程度。世界的な競争激化の中で研究開発費圧縮にやっきになっている各社にとってこの差は大きい。一方で中国政府もしたたかだ。国内で実施された臨床試験であれば、それが欧米基準によるものでも中国での新薬審査の際にフェーズ3(治験の最終段階)の省略が認められるなどのケースは多いという。欧米メーカーにとって、新薬を握ることが市場開拓のカギになることはいうまでもない。

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