元の切上げだけで対中赤字は解消しない。同様に、貿易摩擦の解決だけでも、アメリカの懸念は収まらない。米政府は何を危惧しているのか。[ワシントン発]「中国を悪者にしようというわけではないのです」 中国が人民元の切上げや変動相場制への移行に向けて動かなければ中国製品に一律二七・五%の高率関税を課すという対中制裁法案を提出したチャールズ・シューマー上院議員(民主党)は、『フォーサイト』の取材に応えて法案提出の背景にある考え方を語った。「中国は自由貿易のルールに従わない。自分たちが儲かればいいのだ。だから彼らと話をしても何も変わらない。圧力なしに中国を動かすことはできないのです」 米中関係は最良だとブッシュ政権が自慢していたのは一年前のことだが、今、両国は互いに苦々しい思いを隠さなくなりつつある。というのも、アメリカの対中貿易赤字が記録を塗り替え続けているからだけでなく、中国がハイテク製品の製造にも次第に長けてきたことから、いずれ中国の技術的競争力がアメリカの安全保障を脅かすのではないかとの懸念も広がりはじめたからだ。 ワシントンの対中政策は混迷の度を深めている。ホワイトハウスに戦略はない。政府は、国防総省に代表される対中強硬派と国務省に代表される穏健派とに分裂している。産業界も、中小企業が人民元の切上げを強く求めれば、大企業が火消し役に回るなど足並みは揃わない。

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