統合に急ブレーキをかけたのは、「リーダー」を自任してきたフランスだった。EU拡大への「懐疑主義」を、旗振り役が克服できていなかったのだ。 フランスで五月二十九日に実施された国民投票で、EU(欧州連合)憲法条約の批准が拒否された。その衝撃は大きく、波紋はEU全体に拡大する傾向を見せている。 六月一日にはオランダが同じく国民投票の結果、憲法条約を否認し、同六日にはイギリスが国民投票の実質的延期を表明した。誰も否定できない“善なる概念”であるはずの「ヨーロッパ統合」が、ここにきて足踏み状態を強いられている。 投票の前後にパリにいた筆者が乗り合わせたタクシーの運転手は、国民投票の話題を出すと「俺の知ったことか!」と吐き捨てるように語気を荒らげたものだ。『ル・モンド』紙(五月三十一日付)によると、フランスの国民投票で批准拒否に投じた人の投票動機の中で最も多かったのは、「この条約がフランスの失業事情をさらに悪化させる」という理由だった(四六%)。次に「現状への不満」(四〇%)、「拒否することで条約の再交渉が可能となる」(三五%)、「憲法条約は過度にリベラルである」(三四%)、「条約が難しくて理解できない」(三四%)と続く。

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