クーデタで政権を掌握したエジプトの軍部・暫定政権が行なった、8月14日の座り込み・デモの武力弾圧は、エジプト内政だけでなく、中東地域や国際政治への影響が計りしれない。「エジプトの天安門事件」とも言うべきこの日の弾圧で生じた死者の数は、政府発表でも638人。「アラブの春」全体を通じて1日での死者数としては最大規模である。考え得る限り最悪の選択肢を取り続けている軍部、それにつき従い欧米メディアの批判に「逆ギレ」する暫定政権の文民閣僚たち、そして選挙に勝てないとなると民主的制度を放擲し、軍のクーデタを翼賛、「欧米はムスリム同胞団のテロリズムを支援している」という思い込みの激しい議論を得意げに展開する「リベラル派」のいずれにも、言葉を失ってしまう。エジプト社会の悪い面ばかりが全開になって露呈している感がある。

「脆弱な民主的制度を軍がクーデタで覆し、秩序を求めるエリートや、権力にすがる民衆が礼賛し、排除された反体制派は過激化して長期的に不安定化する」というのは、途上国の政治でよくあることだ、と言ってしまえばそれまでだが、エジプトの地政学的重要性を考えれば、この国の政治的激変と社会的混乱が及ぼす影響は日本にとっても極めて大きい。エジプトの重要性は「場所」と「人口」に由来するために、そう簡単に条件が変わることはない。厄介なこの国に世界は振り回され続ける。

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