『釣魚島主権帰属』というタイトルのとても分厚い中国語の本が今春、中国の人民日報出版社から出版された。先月北京を訪れた際に書店で購入して読んでみたが、本の中身うんぬんではなく、出版の背後にある「意図」を想像して残念な思いがした。

 内容的には過去に発表された資料をまとめただけで、オリジナリティーはゼロに等しい。既存の刊行物で十分に網羅されている文章ばかりで、資料集としての価値も高くはない。下関条約やカイロ宣言、ポツダム宣言、日中共同声明の全文まで載せている。ネットで検索するだけで作れそうな本である。中国語に翻訳された日本人の文章には井上清、高橋庄五郎、そして孫崎享などの名前が並んでいる。いずれも尖閣諸島領有の日本側主張に疑念を向けた議論を展開した日本国内の識者たちばかりだ。

 本の編者は「北京中日新聞事業促進会」と書かれている。あまり普段は耳にしない団体だが、日本で駐在経験がある中国人記者を中心に作られている親睦団体だ。

 どうして元日本駐在記者たちがこのような本を出したのか。中国の知人のベテラン記者に聞くと、「いまの中国では日本通というだけで肩身が狭い。日本にいたことがある記者たちは各メディアで幹部となっている。自分の立場上、組織内で親日派と見られないための政治的なパフォーマンスのようなものですよ」という話だった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。