中国の反日デモは、中国との文化交流に携わってきた人々に大きなショックを与えた。外国との相互理解に文化交流は本当に役立つのかという自信喪失とともに、より効果ある文化交流への模索も始まっている。 反日デモの余韻も収まった五月二十四日、北京の日本文化センターで「箏・尺八 デュオリサイタル」と銘打った演奏会が開かれた。尺八奏者は駐中国ドイツ大使館一等参事官のヴォルフガング・ボックホルト氏、箏奏者は新潟から駆けつけた杉浦順子さんという日独の異色の組み合わせだった。 曲目は「絃のしらべ」「鹿の遠音」「さくら」「詩曲一番」「春の海」の五曲。一曲ごとに約百人の中国人、在留邦人、ドイツ人など国際色豊かな聴衆から拍手が湧き、紋付に袴姿のボックホルト氏が流暢な中国語と日本語で、二つの楽器の特徴や曲目を説明した。 最後の「春の海」。瀬戸内海の春を描写したこの名曲の作曲家、宮城道雄は子供のときに失明したこと、日本では敏感な聴覚をもつ盲人が楽器奏者の職業に就く伝統があったことを同氏が解説。演奏が終わると盛大な拍手がホールを満たした。 偶然だが会場に中国盲人協会の盲人十数人がいた。盲人や聾唖者など障害者を手助けするボランティア活動を長年やっている日本文化センターの藤田安彦所長が招待したのだ。盲人たちは「素晴らしい曲で感動しました」と口々に言った。「反日デモが起きて心配していたのですが、実際に来てみると聴衆の方々が心から喜んでくれて嬉しかったです」と杉浦さん。

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