今こそ日本のエイズ対策を立て直すべきだ

執筆者:宮田一雄2005年7月号

昨年のHIV感染者・エイズ患者の新規報告は千人を超え、累積報告は一万人を突破した。流行は新たなフェイズに入っている。 クラミジア感染症などを扱う国立感染症研究所ウイルス第一部第五室の岸本寿男室長は、七月一日から神戸で開かれる第七回アジア・太平洋地域エイズ国際会議の開会式に出席する。研究者としてではなく、オープニングで尺八を演奏するためだ。「音楽はあくまで趣味です」と謙遜するが、岸本さんにはプロの第一線の音楽家にも負けない経歴がある。 米シアトルのワシントン大学に研究員として留学していた当時、地元テレビ局の依頼でドキュメンタリー番組の音楽を担当し、作曲部門で一九九四年の地域エミー賞を受賞した。北西部六州の地域賞ではあるが、エミー賞といえば米テレビ界最高の栄誉である。留学を終え日本の大学の研究室に戻っていた岸本さんは、教授に言うと叱られるかもしれないと思って表彰式にも出席しなかったそうだが、日本人音楽家としては初の快挙だった。 米南部で感染症の国際学会が開かれたときにはレイ・チャールズの「わが心のジョージア」を尺八で演奏し、全米の感染症学者から喝采を浴びた経験もある。 その岸本さんが「神戸で演奏してくれませんか」という依頼を引き受けたのは他でもない。日本の若者の間に性器クラミジア感染症が広がっていることを危惧しているからだ。「性行為の初体験の年齢が低下し、性体験のある十代の女子ではクラミジア保有率が二割を超えているのでは」と岸本さんはいう。性感染なら女性だけでなく男性にも広がっているはずだ。各種の調査をもとに、岸本さんは「健康な青年層で男女とも五、六%以上がクラミジアを保有しているでしょう」と推定する。

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