耳を疑わせた韓国大統領のその言葉

執筆者:西川恵2005年8月号

 韓国の盧武鉉大統領の口から「今日の夕食は軽めにする考えです」という言葉を聞いたとき、ソウルからのテレビ実況中継を見ていた私は耳を疑った。六月二十日、青瓦台で日韓首脳会談を終えた大統領と小泉首相が共同記者発表に臨んでいたときのことである。 両首脳がツーカーの間柄であるなら、夕食は気楽にとるという正直ベースの言葉だろう。 しかし両国関係がとげとげしいとき、「軽めにする」という言葉は全く別の意味をもつ。「あなたを歓迎しません」「もてなしのレベルを下げます」ということではないか。 靖国参拝問題などをめぐって関係が悪化して初めての首脳会談となった今回は、くつろいだ雰囲気を演出してきた従来の会談と違い、韓国側の意向で「ネクタイ着用」になった。また厳しい質問を封じるためか、これも韓国側の要望で質問を受けない共同記者発表になった。 この記者発表で大統領は「小泉首相が新たな追悼施設の建設を検討すると約束した」と述べた直後、「約束」という言葉はなかったと訂正。「事前に調整されている文章ですので、一字も間違ってはいけない」とつけ加えた。日本側への精一杯の皮肉である。「夕食を軽めにする」という言葉が出たのはこのすぐ後だ。記者団を前にしてホスト側首脳が「歓迎しません」と受け取れる発言をした例を、私は寡聞にして知らない。

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