本書は日本の最先端工場に取材した、モノづくりの現場発の日本産業論である。取り上げられているのは、キヤノンやシャープ、富士通、東芝、松下電器、ホンダ、スズキ、トヨタなど、日本を代表する会社の工場と開発現場である。 特に、ハイブリッド車と一般ガソリン車を同じラインで生産するトヨタの堤工場(愛知県)や、大型液晶パネルで有名なシャープの亀山工場(三重県)の、二つの最先端工場のレポートは貴重だ。また、コンベアを廃止したセル生産方式が最近マルチ(混流)化している話など、一口にセル生産方式といってもその中身にはいろいろな実践形態があることも分かる。 亀山工場はほとんど公開されていないので、取材は簡単ではなかったはずだ。シャープの社員でも、ごくわずかな人しか立ち入りが許されていないと聞く。延べ床面積二十四万平方メートル以上という日本最大の工場建屋の中に、液晶パネル工場とテレビ工場とが一貫生産体制で「同居」している拠点である。生産プロセス中最大の難関は大型液晶パネルの構内搬送だが、搬送装置に独自の工夫を加えるなど、課題への対策が細かく記述されている。 亀山工場の規模や重要性について書かれたレポートは多いが、レイアウトや設備の工夫がもたらす効果について言及した点に、この本の特長が出ている。なぜなら、ライバルが簡単には突き崩せない優位性はこういった試みの積み重ねから生まれるからだ。

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