化学兵器を反政府勢力に使ったとされるシリアのアサド政権に対する軍事攻撃に米国民の反対が高まっている。議会承認を求めたオバマ政権の状況把握力を疑問視する声も多い。

 対外関与姿勢において、歴史的転機に立つ米国の現状を捉えた説明として、次の2つが挙がることが多い。

(1)ジョージ・W・ブッシュの対イラク戦争、オバマの対アフガニスタン戦争はいずれも成果というには程遠いものだった。21世紀におけるこの2つの戦争に対する厭戦気分のなかで、とても対シリア戦争に賛同はできないという判断が広がった。

(2)シェール・ガス革命によって中東のエネルギーに対する米国の依存度が低下し、遠くない将来に中東原油からの完全脱却の見通しが実現しそうなところから、地政学上の関心が中東から離れつつある。

 いずれも根拠を欠くとは思われないが、私はもうひとつを挙げるべきだと思う。それは「アメリカズ」と複数形で呼ばれる南北アメリカを通じての世界の秩序形成に対する自信が、米国による「世界の警察官」の役割遂行という、第2次大戦後の路線の見直しに結び付き始めたという仮説である。

 

「チャベス後」のベネズエラ

 「チャベス後」のベネズエラ大統領、マドゥーロ。前途は多難だ (C)AFP=時事
「チャベス後」のベネズエラ大統領、マドゥーロ。前途は多難だ (C)AFP=時事

 19世紀の前半にモンロー米大統領が唱えた中南米諸国へのヨーロッパ諸国の干渉排除という主張にまで遡る来歴もある。西半球とも呼ばれるアメリカズの秩序づくりは、軍事力の意味を極小化する形で進行しているのだ。米国の製造業の回復は、シェール・ガス革命による低燃費や廉価な化学原料の登場で説明されることが多いが、米国南部を根拠地とする製造業はラテンアメリカ向けの輸出によっても支援されるようになりつつある。

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