「変調・中国経済」の本当の病巣

執筆者:五味康平2005年8月号

成長を牽引してきた外資の直接投資が細り始めている。バブル景気以上に深刻なのは、“開発独裁”の限界を世界が強く意識していることだ。 本人が自覚しながら隠そうとする問題は、しばしば細部の矛盾で人の知るところとなる。今、中国経済に起きている変調も、些細なことから我々は窺い知ることができる。 中国政府の公式な経済統計速報は、国家統計局の発行する「中国経済景気月報」で発表される。中国をウオッチするエコノミストには欠かせない出版物だ。この月報で今年に入ってミステリーのような数字操作が毎月、行なわれている。 外資の直接投資実行額の過去データの改竄だ。月報によれば今年に入っても中国への直接投資は増え続け、前年同月比で一月=一〇・七%増、二月=五・七%増、三月=一一・四%増。四月は一転して一六・〇%減となっているが、四月に反日の嵐が吹き荒れたという事情を考えればこの減少は納得できる。つまり、額面通りなら外資の投資はきわめて堅調だといえるだろう。 だが、この月報を昨年のものからひっくり返してみれば奇妙な事実にぶつかるはずだ。今年に入ってから毎月、直接投資額が発表される度に昨年の同月の数字が下方修正されているのだ。例えば、昨年三月分は以前の月報では五十七億五千万ドルだったものが四十八億七千万ドルに、昨年四月分は五十五億五千万ドルが四十八億六千万ドルに下方修正された。目的は明瞭だ。昨年の同月の数字を下げることで、今年に入っても外資の直接投資が増え続けていると粧っているのである。いわゆる「発射台を下げる」インチキだ。

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