郵政総選挙「小泉勝利」の予兆

執筆者:田勢康弘2005年9月号

「日本の政治の本質」が変わる選挙になるのかもしれない。自ら「郵政解散」と名づけた総選挙に打って出た首相。古い自民党と、存在感なき民主党は、選挙の争点さえ築けずにいる。 郵政民営化法案が成立していたら、小泉首相はその瞬間に退陣表明していたのではないか、と思う。だれにも己の胸の内を明かさない人だから、ほんとうのところはわからない。ただ、この異端の指導者を観察し続けてきた身としては、直感としてそう感じるとしか言いようがない。この人物には戦略や打算があるように見えて実のところは何もない。一日でも長く総理の座にすわっていたいという欲もない。それがあれば、攻める側がつけいる隙も出てくるが、あるのは古典的な男の美学と、非情さだけである。 成立したら突然の退陣、否決されたら衆議院を解散して徹底的に戦う。小泉の胸中で郵政民営化法案成立と衆議院解散がほとんど同列で、優先順位はついていなかったのではないかと思う。衆議院で五票差で可決したとき、小泉は複雑な笑顔を浮かべた。総務大臣の麻生太郎が祝意の手を差しのべ、「もうちょっとで選挙できたのに惜しかったですね」と語りかけると、小泉は真顔で「ウン」と答えた。衆議院で否決されたら二時間後に臨時閣議を招集し、解散詔書に署名という段取りもできていた。投票日も「9.11」と決まっていた。郵政民営化を小泉改革の本丸と位置づけてきた小泉にとっては、郵政民営化が失敗に終わるようなら、他の構造改革はひとつも手がつかないことを意味していた。

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