「欧州の劣等生」となったドイツで、首相が起死回生の賭けに打って出た。初の女性首相誕生の公算が大だが――。[ベルリン発]冷夏のドイツで、政治家たちの熱い闘いが続いている。一九九八年秋以来、社会民主党(SPD)と緑の党の左派連立政権を率いてきたシュレーダー首相(社民党前党首)が二期目の任期を約一年残して、繰り上げ総選挙実施を決断したからだ。連邦議会の解散権を握るケーラー大統領も、解散・早期選挙に同意し、投票日を九月十八日に設定した。世論調査では、保守系野党勢力のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が支持率で社民党に大差をつけており、七年ぶりの政権交代が濃厚とみられている。 七月二十一日夜。ドイツ第一テレビARDの画面に映ったケーラー大統領の顔は強ばっていた。全国民向けに演説し、同日付で連邦議会を解散し、繰り上げ総選挙を九月十八日に設定したと告げた瞬間だ。首相から議会解散要請を受けた大統領は二十日間も返答を保留し、国民をやきもきさせたが、最終的に要請に応じた。大統領の三週間近い沈黙と解散を告げた際の硬い表情は、迷った末の決断だったことを窺わせた。 ドイツの首相には、日本の首相のような解散権がない。憲法に相当するドイツ基本法は、首相が自身の信任を連邦議会に諮って否決された場合にのみ、大統領に連邦議会解散を提案できる、と規定している。基本法が議会解散に歯止めをかけているのは、解散や内閣総辞職が相次ぎ、ナチスの台頭を許したワイマール共和国時代の反省からだ。

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