「トラック2外交」はソフトパワーの源泉

執筆者:田中明彦2005年9月号

 ちょうど北京で六カ国協議が開催されている八月はじめ、同じ北京で開催された安全保障問題を討議する国際会議に参加してきた。こちらは中国の有力シンクタンクである中国現代国際関係研究院の主催で、基本的に民間の会議だが、参加者は奇しくも六カ国協議の参加国と同じ中国、アメリカ、日本、ロシア、韓国、北朝鮮からの専門家であった。 六カ国協議と異なり、切実な課題について合意をもたらすことは必要とされていない会議であるから、それほど切迫感はない。だが、同じような問題を討議していることもあり、六カ国からのそれぞれの参加者の意見の違いを聞くことができて大変有益であった。 このような会議は、国際問題を専門にする筆者などのような人間にとっては、学会と同様にそれ自体有益な研鑽の場である。しかし、政府間でも話し合いがもたれている問題について、民間で並行して議論が盛んに行なわれるというのは、どうも現代外交の特徴なのではないかと思う。 このような会合を称して、「トラック2」の会合などと言われる。政府間の会合が第一の走路であり「トラック1」と呼ばれるのに対して、これと並行して進む走路、つまり第二の走路というわけでトラック2になる。北京の釣魚台で行なわれていた六カ国協議がトラック1、筆者の参加していた六カ国の国際会議がトラック2にあたるわけだ。

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