『民間防衛』Zivilverteidigungスイス政府編原書房 1970年刊 今年三月、ツューリッヒで行きつけの書店、オレル・フュスリの本店を訪ね、「民間防衛」関係の新著の有無を質問した。応対してくれた店員は、「昨日のターゲスアンツァイガーが採り上げたあの本なら、ありません」と答えた。何のことやら判らなかった私は、「それは何のこと?」と訊ねた。この問答で判明したのだが、地元有力紙『ターゲスアンツァイガー』は前日、三十六年前にスイス政府が各戸配布したくだんの『民間防衛』を俎上にした長文の評論を掲載していた。店員は私がそれを読んで、元本を探していると思ったらしい。 だとするとむしろ、その評論の方を読みたくなった。新聞社で入手してみると、これが写真込みで一ページを占める長大な評論。だがこれも数日前の講演の抜萃だと分かったので、即座にインターネットで全文を入手、一読した。掲載分の数倍もある長い講演録だ。筆者は気鋭の歴史家フィリップ・サラシン、表題は「脅威の文化」。内容はと言えば、脅威を意識、かつ強調しすぎる傾きのあるスイス国民性に対する辛い批判で、この国民性を象徴したものとして「あの赤本」を採り上げている。

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