アネクドート生存の鍵・プーチン

執筆者:名越健郎2005年9月号

 モスクワで暮らす筆者にとって、楽しみはロシア人から最新のアネクドートを収集すること。ソ連解体後、傑作は減ったものの、小話はロシア社会を映す鏡でもある。 ロシア文化の結晶と言うべきアネクドートは、ギリシャ語の「アネクドトス(地下出版)」から来ており、帝政時代からロシアの伝統だった。したたかなロシアの民衆は、歴史の動乱を横目に仲間内のアネクドートで憂さを晴らし、事態を諦観してきた。 アネクドートが異常に発達したソ連時代、民衆は社会主義に盲従のそぶりを示す一方、裏では小話で痛烈に批判、冷笑しており、ソ連解体の原動力になったと言っても言いすぎではない。 ソ連解体後、一党独裁の閉鎖社会が変革され、アネクドートは存亡の危機に立ったが、独裁、汚職、官僚主義といった「養分」がプーチン体制下で増幅。引き続き生命力を維持している。 スターリンは、いかにしてこの国を統治すべきかを示した。 フルシチョフは、能力がなくても統治のそぶりができることを示した。 ブレジネフは、能力のない者が統治できるわけではないことを示した。 ゴルバチョフは、この国の統治がいかに難しいかを示した。 エリツィンは、結局この国は統治できないことを示した。

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