今度は許されない「アスベスト処理」の失政

執筆者:沢木実緒2005年10月号

かつて通産省は、こともあろうにアスベスト規制法案に反対した。知っていながら放置してきた他の省庁も罪は重い。 アスベスト(石綿)関連工場で多数の死者が出たことが公になってから、不安は広がる一方だ。八月二十六日時点で五百八十人を数える死者は今後さらに増加し、四十年間で十万人を超えるとの予測もある。「静かな時限爆弾」の導火線に火が点いたのだ。 労働災害の枠を超え問題が広がる背景には、石綿が体内に入り込む曝露から発症までのタイムラグ、そして専門家(行政)と非専門家(国民)との情報格差という「ふたつのギャップ」があった。情報の共有を阻んだ「縦割り」 天然の鉱物繊維であるアスベストは、非常に丈夫で耐熱・耐火性に優れ、摩擦や酸・アルカリにも強い。「奇跡の鉱物」と呼ばれる所以だ。産業の様々な場面で重宝され、断熱材や防音材などの建材をはじめ、最盛期の用途は三千種類にも上った。 この優れた性質が人体には裏目に出た。空中に浮遊する細い石綿繊維を吸い込むと、肺に刺さって劣化せずに長期間とどまり、数十年かけて肺癌などをひき起こすのだ。特にやっかいなのが臓器を包む胸膜などにできる癌「悪性中皮腫」で、症例が少ないため診断法も確立しておらず、いまだ有効な治療法はない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。