“メディア王”マードックに襲いかかる落日

執筆者:梅本逸郎2005年10月号

後継として手塩にかけた長男は去った。盟友の裏切り、ネット部門の出遅れ――新たなメディア再編のうねりが“帝国”を翻弄している。[ニューヨーク発]昨年暮れに登記上の本社を創業の地である豪アデレードからニューヨークに移し、その後も映画、テレビ、新聞と事業各分野で業績はそれなりに好調。だが、名実ともにグローバル総合メディア企業となったはずのニューズ・コーポレーションに、いま終焉の影が静かに忍び寄っている。 後継者として育てた長男の突然の離反、グリーンメーラー(買い占めた株式の高値買い戻しを迫る買収者)と化した盟友、そして何よりも半世紀にわたり強引な合併・買収(M&A)も辞さない手法で帝国を築き上げてきたメディア王、会長兼最高経営責任者(CEO)ルパート・マードック(七四)自身の老い――。 七月二十九日、ニューズ・コープは、ルパートの長男ラクラン(三四)がニューズの最高執行責任者(COO)代行を辞任すると発表した。ニューヨークで配布されたプレスリリースは、父親から息子への情感あふれる手紙のようにも読める。十年前から手元に置いて帝王学を授けてきた長男が、役員メンバーの片隅には残るとはいえ故郷のオーストラリアに帰るという。これに対し父は、「担当した業務は最高益を上げ、全権を託したニューヨーク・ポスト紙も過去最高の発行部数を記録している」と、息子の業績に最大限の賛辞を送るだけでなく、「辞任の決断は悲しいことだ」と嘆いてみせた。

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